大分地方裁判所 平成3年(行ウ)4号 判決 1996年2月27日
原告
大分瓦斯株式会社
右代表者代表取締役
福島親比古
右訴訟代理人弁護士
内田健
同
山本洋一郎
被告
別府税務署長佐藤芳雄
右指定代理人
小澤正義
外一〇名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
一 被告が原告に対し平成元年六月一七日付けでした原告の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、本税額一億九二二二万五二六〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、同税額七五〇〇円を超える部分(但し、平成二年一二月二一日付け裁決で取り消された部分を除く。)をいずれも取り消す。
二 被告が原告に対し平成元年六月一七日付けでした原告の昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、本税額一億七〇八〇万八四四九円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、同税額二二万六〇〇〇円を超える部分(但し、前項の裁決で取り消された部分を除く。)をいずれも取り消す。
第二 事案の概要
本件は、被告が、都市ガス供給業等を営む青色申告書の提出の承認を受けた会社である原告に対し、原告の法人税確定申告が原料ガスの仕入価額の過大計上に基づくものであること等を理由として、法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことにつき、被告が仕入価額の過大計上等を理由に原告の所得を過大に認定したのは違法であり、また、被告が原告の仕入価額を同業者の仕入価額によって認定したのは法人税法一三一条(青色申告法人に対する推計課税の禁止)に違反するとして、原告が被告に対して右各処分(裁決により取り消された部分を除く。)の取り消しを求めたものである。
一 争いのない事実
1 原告は、都市ガス供給業等を営む青色申告書の提出の承認を受けた会社である。
2 原告の事業年度は、四月一日から翌年三月三一日までである(以下、各事業年度については、その終了の年月をもって「何年三月期」と表示する。)。
3 昭和電工株式会社(以下「昭和電工」という。)からの副生ガスの仕入について
(一) 原告は、昭和電工を供給主として、都市ガスの原材料となる副生ガスの継続的供給契約を締結し、昭和電工大分工場との間に導管(パイプライン)を敷設して、副生ガスを継続的に仕入れていた。
(二) ガスの卸供給事業者は、通商産業大臣の認可を受けた料金によるのでなければ、ガスを供給してはならず(ガス事業法二四条)、これに違反すれば刑事罰を科せられる(同法五七条六号)。そして、昭和電工は、ガスの卸供給事業者に該り、原告に対して供給している副生ガスの料金について右認可を受けていた(以下、右認可を受けた料金の額を「認可価格」という。)。
(三) 原告は、昭和電工に対し、右認可価格相当額を毎月支払っていた。
4 別大興産株式会社(以下「別大興産)という。)からのブタンガスの仕入について
(一) 原告は、別大興産から、ブタンガスを継続して仕入れていた。
(二) 別大興産は、原告の同族会社であり、原告の代表取締役を始めとする原告の役員でその役員を構成している。そして、別大興産の売上先は原告一社のみであり、事務処理を行う専従の社員も専用の事務室もなく、原告の経理部長が別大興産の経理責任者を兼ねている。
(三) 原告は、別大興産から仕入れていたブタンガスについて、一キログラム当たりの単価を昭和六〇年一二月二一日以降六八円、昭和六一年八月二一日以降四九円、昭和六三年八月二一日以降三六円、平成元年二月二一日以降二八円とし、右単価に基づく金員を別大興産に対して支払った。
(四) 原告は、右のとおり別大興産から仕入れたブタンガスのうち、昭和六一年四月から同年八月までの供給分について一キログラム当たり一九円、昭和六三年一月から同年八月までの供給分について一キログラム当たり一三円の金員を、別大興産からそれぞれ受領した。
5 原告は被告に対し、昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期(以下「本件各事業年度」という。)の所得金額及び納付すべき税額を別表1及び2の「確定申告」欄記載のとおりとする青色の法人税確定申告書を、それぞれ法定申告期限内に提出した。
6 前項の確定申告に対し、被告は、平成元年五月三〇日付けで更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったが、同年六月一七日付けで右各処分を取り消した上、同日付けで別表1及び2の「更正等」欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件課税処分」という。)を行った。
7 原告は、本件課税処分の一部について、国税不服審判所長に対し、同年八月一二日付けで審査請求をしたところ、同所長は、平成二年一二月二一日付けで、本件課税処分のうち、別表1及び2の「裁決により取消された額」欄記載の部分を取り消し、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月二七日ころ、右裁決書謄本が原告に送達された。
8 本件課税処分のうち、右裁決で取り消されなかった所得金額の内訳は、別表3の「更正等処分のうち取消されなかった額」欄記載のとおりであり、同表の③ないし⑥及び⑨ないし⑪の内容は以下のとおりである。
(一) 仕入価額(別表3③)、雑収入(別表3⑨)
原告が、昭和電工から仕入れた副生ガスの仕入価額を昭和六二年三月期五億六一六三万七九九〇円、昭和六三年三月期五億四一七六万四一六〇円(以下「本件副生ガス仕入価額」という。)として損金の額に算入したところ、被告は、右価額を売上原価として未確定であると認定し、西日本地域から原告と同業種の法人五社を抽出して、右五社のブタンガスの仕入価額のうち最も高額なA社の仕入価額を基に一定の算式により算定した額をもって原告の副生ガスの仕入価額と認定した上、これを超える金額(昭和六二年三月期二億六五二六万五四六七円、昭和六三年三月期二億五九八九万二六三五円)を仕入価額の過大計上であるとして各所得金額に加算するとともに(別表3③)、これに伴い、昭和六三年三月期において原告が計上済みであった雑収入額から、昭和六二年三月期の右加算額と同額を減算した(別表3⑨)。
(二) 寄付金損金不算入額(別表3④)
原告が、別大興産から仕入れたブタンガスの仕入価額を昭和六二年三月期四億四六九三万四三九〇円、昭和六三年三月期六億〇五九六万七三二〇円(以下「本件ブタンガス仕入価額」という。)として、損金の額に算入したところ、被告は、前記A社の仕入価額をもって原告の仕入価額と認定し、これを超える金額(昭和六二年三月期一億〇七五二万六五五〇円、昭和六三年三月期一億五三一三万四八二〇円)は、仕入価額の過大計上で、別大興産に対する贈与であるとして、法人税法(以下「法」という。)三七条六項の寄付金と認定した上、右寄付金のうち当該事業年度末までに支払われていないものを除いて、寄付金の損金算入限度額を超える部分(昭和六二年三月期五一三七万七〇四〇円、昭和六三年三月期一億三四三二万六五九一円)の損金算入を否認して各所得金額に加算した。
(三) 原材料費(別表3⑤)、寄付金認容額(別表3⑩)
被告は、前記(二)のとおり、本件ブタンガス仕入価額の一部を寄付金と認定したことに伴い、右寄付金該当部分のうち当該事業年度末までに支出されていないもの(昭和六二年三月期四九〇八万一八三〇円、昭和六三年三月期六五七七万九八八〇円)につき、損金算入を否認して各所得金額に加算するとともに(別表3⑤)、昭和六三年三月期における所得金額から、これに対応する昭和六二年三月期の右加算額と同額を寄付金認容額として減算した(別表3⑩)。
(四) 期首棚卸資産(別表3⑥)、期末棚卸資産(別表3⑪)
被告は、前記(一)(二)のとおり、本件副生ガス仕入価額及び本件ブタンガス仕入価額をいずれも過大計上と認定したことに伴い、昭和六二年三月期の期末棚卸資産のうち過大計上分(一六九万八六四八円)を同期の所得金額から減算するとともに(別表3⑪)、これに対応する昭和六三年三月期の所得金額に加算した(別表3⑥)。
二 争点
1 本件副生ガス仕入価額に関する本件課税処分の適否
(一) 実体上の違法事由の存否について
(原告の主張)
(1) 本件副生ガス仕入価額は、法二二条三項一号に規定する「売上原価」に該当し、同条四項に規定する「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算され」たものである。すなわち、本件副生ガスは認可価格による取引が法律上義務付けられている上、当事者が認可価格により供給する旨合意しているのであり、現に、原告が長年にわたり継続的に認可価格によって代金の支払を行っていることなどからすれば、本件副生ガスの仕入価額が認可価格であることは明らかである。そして、本件副生ガスの代金債務は、同ガスを供給したときに発生し、金額まで確定する。原告は、当該事業年度内に同ガスを原料とする都市ガスを製造して顧客に販売している。したがって、原告が、認可価格による仕入価額を当該事業年度の収益にかかる売上原価として損金の額に算入するのは当然である。また、原告は、適宜、昭和電工に対し、既往の副生ガス仕入代金につき割戻しを請求し、仕入割戻金を受領しているが、これは事前に合意していたものではなく、事業年度終了後の割戻交渉により新たに実現したものであり、仮価格の精算のようなものではない。このように、原告が計上した副生ガスの仕入代金債務及び仕入割戻金債権は、いずれも当該年度に現実に発生し、確定しているのであるから、本件副生ガス仕入価額を売上原価として未確定であるとした本件課税処分は、事実を誤認したものであり、違法である。
(2) また、課税庁が、納税者の行った私法上の取引行為の存在又はその効力を否認し、これに代わるものを認定することが許されるのは、法律にその旨の規定がある場合(法三四条、三六条、一三一条、一三二条等)に限られる。しかし、本件課税処分は、法律に何ら規定がないにもかかわらず、副生ガスの仕入価額の損金算入及び仕入割戻金の益金算入を否認し、これに代わる仕入価額を認定しているのであるから、租税法律主義に反している。
(被告の主張)
(1) 副生ガスは、昭和電工にとっては副産物であり、原価計算をすべきものではなく、いわば無価値なものである。さらに、副生ガスを投棄しようとすると、大気汚染防止等の必要から処理施設の建設など膨大な費用を要することになるが、これを原告に都市ガスの原材料として供給すれば、より価値の高いブタンガスと同じ扱いができることになる。このため、昭和電工は、自費でパイプラインを引いてまで原告に副生ガスを供給したのである。しかも副生ガスは、パイプラインで供給するほかなく、昭和電工によって、副生ガスの供給先は原告に限られる状況にある。このようなことから、原告は、副生ガスの価格交渉において、昭和電工に対して圧倒的に優位な立場にあるため、副生ガスの料金については、原告の要求した価格に基づいて原価計算した形式を整えて通商産業大臣の認可を受けていたものである。そして、この認可価格は、国内の流通段階において卸価格としては最も高い水準にある最終卸価格の指標である日経マンスリーのブタンガス価格に依拠して決められていた。右のように、買い手である原告にとって、一見不利と思える高い認可価格による仕入価額と、昭和電工に対して圧倒的に優位にある原告の立場とは矛盾するように見えるが、これは、仕入価額を高めに設定して原価を高くすることにより、原告の消費者に対する一般供給価格を高水準に維持するためである。したがって、原告はもちろん、取引の相手方である昭和電工においても、右認可価格を最終的な卸価格とする意図があったとは認められず、実際上も昭和電工は、右認可価額が結果において仮価格になるとの認識の下に、毎月独自に右認可価格とは異なる価格を見積って売上(収益)を計上し、差額予定額を売上引当金としていた。このように、原告と昭和電工との間においては、いったん認可価格で売買した形を採るものの、取引開始年から本件各事業年度までの間、経常的に、翌事業年度に割戻しという名目で、卸価格としては国内で最も低い水準にある西部ガス株式会社(以下「西部ガス」という。)のブタンガス購入価格よりも更に一円安い原告に極めて有利な価格による精算方法を行っていた。また、石油化学工業界においては、いわゆる仮価格での取引慣行があるほか、昭和電工においては、認可価格を卸価格とせず、独自に見積り計算した額を卸価格としており、原告においても、課税年度における仕入価額の見積り計算は十分可能であった。このような事実を総合すれば、原告と昭和電工との間に副生ガスの認可価格を仕入価額とするとの契約は存在せず、認可価格はあくまで仮価格であったとみるべきである。
(2) また、一般的に仕入割戻しとは、一定期間に多額又は多量の取引をした仕入先から仕入代金の払戻しを受けることをいい、その算定基準は購入価額又は購入数量によっており、仕入割戻額の仕入価額に対する割合には自ずと限度があるものと解されている。しかるに、本件副生ガスの仕入における原告の割戻率は、昭和六二年三月期が62.8パーセント、昭和六三年三月期が61.58パーセントと、仕入割戻しとは通常認められない高率となっている。そして、その算定基準は、購入価額又は購入数量に基づくものではなく、後の価格の改定に基づくものであり、しかも、払戻しを受ける原告が一方的に主導する形で精算が行われており、さらに、精算に関する覚書には、仮価格の精算である旨の記載はあるが、仕入割戻しに関する記載が一切ないことなどからしても、本件の精算が仕入割戻しであるとは認められない。したがって、本件副生ガス仕入価額を売上原価としては未確定な仮価格であると認定した本件課税処分に違法不当な点は存しない。
(3) 法人税の課税標準は、法人の各事業年度の所得の金額である(法二一条)ことから、損益法の企業会計の下で右法人所得を計算するためには、的確な期間損益の把握が不可欠である。そして、費用収益対応の原則は、法人所得の計算においても妥当し、的確に期間損益を計算把握する見地から、実現した収益とそれを生み出すのに要した費用は、同一の会計年度に計上することが要請され、法人税法においても「当該事業年度の収益に係る売上原価」等は「当該事業年度の損金の額に算入すべき金額」とされているのであり(法二二条三項)右期間損益計算の基本原則に照らせば、当該事業年度の収益に対応する売上原価等の額が確定しないとしても、その金額を適正に見積もらなくてはならない。本件副生ガスの仕入は、後に精算することが予定された仮価格による仕入であると認められたので、法二二条三項により、本件各事業年度の収益に対応した仕入価額を適正に見積ったのであり、これは法人税法の要請するところであるから、租税法律主義に反するものではない。
(二) 手続上の違法事由の存否について
(原告の主張)
原告は青色申告書の提出の承認を受けた法人であるところ、被告は、原告の本件各事業年度の各仕入価額を否認して、原告と同業種の法人五社を抽出し、そのうち最も高額なA社の仕入価額を基に一定の算式により算出した額をもって原告の仕入価額と認定している。しかし、これはまさに推計課税であるから、青色申告法人に対して推計課税を禁止している法一三一条に違反しており、本件課税処分は、その内容に立ち入るまでもなく、取消しを免れない。
(被告の主張)
本件課税処分は、原告の帳簿書類を調査した結果、昭和電工からの副生ガスの仕入価額が後に精算することが予定された仮価格のまま計上されており、これを各事業年度の収益に対応した仕入価額とすることは誤りであると認められたので、その部分について、適正な仕入価額を認定したものであって、法一三〇条所定の「内国法人の帳簿書類を調査し、その調査により当該課税標準又は欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合」に該当し、青色申告者に対してもされるべきものである。そして、本件においては、西日本地域の原告と同業種の法人五社のブタンガス仕入価額を調査し、その平均価額ではなく、最高価額によって直接仕入価額を認定したものであるから、それによる認定は、間接資料からの推認ではなく、直接資料による実額認定である。したがって、本件課税処分は、課税標準を推計してされたものではない。
2 本件ブタンガス仕入価額に関する課税処分の適否
(一) 実体上の違法事由の存否について
(原告の主張)
(1) 原告のブタンガスの仕入価額は、法人間の契約において適正に取り決められた価額であって、仕入価額が過大であるとはいえず、法三七条六項に規定する寄付金を生じる余地はない。すなわち、本件ブタンガスの取引は、継続的取引契約に基づくところ、原告は、別大興産との間において、新たな価格改定の協議が成立しない限り、従前の協定価格(仕入価額は、価格改定時のブタンガスの市況である日経マンスリー価格とほぼ一致しているから、右改定時においては適正価格である。)により仕入を継続すべき債務を負担している。ブタンガスの市場価格が下落して従前の協定価格が割高になったとしても、市場価格の見込違いによる損得を理由として、継続的取引契約を解除したり、価格の改定を請求したりすることはできない。したがって、仕入価額が市場価格に比較して若干高くなったとしても、これをもって直ちに同条項所定の「金銭の贈与」に該当すると認定することは許されない。本件課税処分は、この点において事実を誤認し、または法律の解釈適用を誤っている。
(2) また、同条項は、「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合」を前提として、この場合における寄付金の「額」をいつの時点の、いかなる価格によるべきかを定めたに過ぎず、贈与とみなしたり、寄付金に含めたりした規定ではない。この点は、同条一項ないし七項の文理上明白である。すなわち、同条七項は、資産の譲渡の対価額と譲渡時の時価との差額のうち実質的に贈与したと認められる金額を「寄付金の額に含まれるものとする」規定ではあるが、これは「低額譲渡」のときに限られ、「高額譲受」のときについて同種の規定は存在しない。仮に、同条六項が本件課税処分の根拠規定たりうると解釈されるとすれば、同項は「低額譲渡」「高額譲受」双方の根拠規定となるはずであるが、このような解釈は、法が、六項とは別にわざわざ「低額譲渡」について七項を置いた趣旨を無視するもので、到底許されない。したがって、同条六項は寄付金認定の根拠たりえず、他に根拠規定もないので、結局、本件課税処分は同条項の解釈適用を誤り、租税法律主義に反している。
(被告の主張)
(1) 本件ブタンガス仕入価額のうち適正価額を超える部分(原告は、価格改定時においては仕入価額は適正価額であったと主張するが、実勢価格に概ね沿った価格の改定がなされていたのは昭和六一年三月ころまでであり、本件課税処分で問題となっているのは、それ以降の価格改定についてである。)は、別大興産に対する寄付金である。すなわち、同族関係会社の別大興産を介在させたブタンガスの仕入単価と原告の他の仕入先である二豊液化ガス外二社からの仕入単価との間には大きな格差があるところ、別大興産を介在させなければブタンガスを仕入れられないような経済的合理性は全く認められない。それにもかかわらず異常な高価格で取引されるのは、原告と別大興産が同族関係会社であるが故の不合理なものであって、前記認可価格を高めに設定するため、さらには、別大興産に所得を分散する意図であるとしか考えられない。このような行為計算は法一三二条からも許されないが、同条は補充的規定と考えられ、本件においては、法三七条六項が適用され、原告の別大興産からのブタンガスの仕入価額のうち適正価額として被告が適正かつ合理的に認定した額を超える部分を寄付金と認定したものである。
(2) 法三七条六項は、寄付金の概念について、「寄付金、きょ出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わ」ないとし、「金銭その他の資産」のみに限定せず、「経済的な利益」まで含み、「贈与」のほか「無償の供与」まで含めている。そうすると、同条項は、寄付金の概念を実質的、包括的に捉え、同条項括弧書きで除外された事業遂行上の必要が認められたもの以外は、当該行為時点の「価額」すなわち時価ないし適正価額をもって寄付金の額としたものである。このような観点からすれば、同条七項は、資産等を時価よりも低額で譲渡した場合について、「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」については、そのように認定されたところに従って扱う(時価相当額で譲渡するとともに、直ちに受領した対価の一部を贈与した場合と同様の処理をする。)ということを定めたもので、単なる確認規定に過ぎないと解される。これに対し、資産の高価買入れに合理的理由がなく、適正価額を超過する分について実質的に贈与したと認められる場合には、このような思考過程を経なくても適正価額を超過する金銭の贈与を直截に認識できるから、寄付金に関する実質的規定である同条六項によって、当該適正価額超過分は寄付金と認定されるのであり、資産の高価買入れにつき、同条七項のような規定がないから寄付金と認定することができないとの反対解釈が導かれるのではない。そして、実質的に贈与したと認められるか否かについては、当該取引に伴う経済的効果が贈与と同視できるものであれば足り、譲渡者が贈与の意思を有していたことを必要とせず、時価との差額を認識していたことも必要としないのであって、当該高価買入れに合理的理由がないことが客観的に認定されれば足りるのである。
(二) 手続上の違法事由の存否について
(原告の主張)
原告は青色申告書の提出の承認を受けた法人であるところ、被告は、原告の各事業年度のブタンガスの仕入価額を否認して、原告と同業種の法人五社を抽出し、そのうち最も高額なA社の仕入価額をもって原告の仕入価額と認定しているが、これはまさに推定課税であるから、青色申告法人に対し推計課税を禁止している法一三一条に違反している。
(被告の主張)
本件課税処分は、同族関係会社の別大興産からのブタンガスの仕入価額のうち、適正価額を超える部分を同社に対する贈与と認定しているが、これも昭和電工からの副生ガスの仕入価額の見積りの際と同じ同業五社の各月のブタンガス仕入価額のうち最高額をもって適正価額とし、これを超える分を贈与と認定しているのであって、このような適正価額の認定方法が合理的であり、法一三一条に違反しないことは、前記1(二)における「被告の主張」と同様である。
第三 争点に対する判断
一 本件副生ガス仕入価額に関する本件課税処分の実体上の違法事由の存否について(争点1(一))
1 前記争いがない事実に、証拠(甲二ないし九、一〇ないし一二の各1、2、一三及び一四の各1ないし3、一五、三〇の1ないし4、三一、三二及び三三の各1、2、三四の1ないし24、三五、三六、乙一二、一三、二九、三〇の1ないし3、三一、三四の1ないし11、三五、証人馬見塚学、同佐藤龍雄、原告代表者福島知克本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右原告代表者本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は採用できない。
(一) 原告と昭和電工(当時は昭和油化株式会社)は、昭和五三年八月二二日、副生ガスの需給に関する基本契約(覚書)を締結した。原告と昭和電工は、右覚書に基づき、同年一一月二八日、副生ガスの売買契約を締結するとともに(副生ガスの量及び仕入価額については、別途協定書によるものとされている。)、右売買の細目について、覚書と題する書面を作成した。そして、仕入価額については、同日付けで、一〇〇〇キロカロリー当たり三円五銭とする旨の協定書が作成された。
(二) 本件の副生ガスは、昭和電工が大型の石油化学プラントを使用してナフサを原料にエチレンやプロピレンを製造する過程で発生する副産物(一種の残滓ガス)であり、昭和電工にとっては、無価値なものであるばかりか、仮に投棄しようとしても、大気汚染防止等の関係で多くの費用を要するものである。本件の副生ガスは、水素とメタンを主成分とするものであるが、関東地区や大阪地区にある石油化学コンビナートでは、この副生ガスを都市ガスの原料として都市ガス会社に売却していた。そこで、昭和電工は、原告に対し、副生ガスを供給するためのパイプラインを昭和電工側が敷設することまで提案するなどして、副生ガスの購入を懇請した結果、前記売買契約が締結された。なお、昭和電工の副生ガスの供給先は原告に限られており、原告は独占的需要者ともいうべき立場にあった。
(三) 昭和電工は、毎年、副生ガスの料金についてガス事業法二四条所定の通商産業大臣の認可を受けなければならない。右料金の認可申請について、形式的には、ナフサ等の原料費、労務費等の製造原価及び一般管理費等の原価計算資料等を基にした、いわゆる積上原価方式により算定した価格で認可申請を行っていた。しかし、そもそも副生ガスは、昭和電工にとって副産物であるから、元来、原価計算をすべきものではなく、右原価計算の実態は、原告と相談して設定した価格が昭和電工の原価計算の基準範囲に入っているかどうか(基準内であれば、それをもって認可申請価格とする。)を検証するというものであった。そして、右価格設定については、前記(二)の事情を背景として、原告がその主導権を握っていたため、原告の要求する価格が、前記検証を経て、そのまま昭和電工の認可申請価格になっており、原告は、国内の流通段階における卸価格としては最高水準にある最終卸価格の指標である日経マンスリー(日本経済新聞に掲載されている月単位の相場価格)のブタンガス価格を参考にして、右価格を決めていた。
(四) 原告と昭和電工との間では、副生ガスの取引開始当時から、前記認可価格による取引を行い、原告は昭和電工に対し、その代金を支払ってきた。しかし、右認可価格と、都市ガスの原料ガスの実勢価格との間に価格差が生ずることが多く、このような場合、原告と昭和電工との間では、右認可価格を新たに修正した価格を取引価格とし、右認可価格との差額を現金で精算する旨の覚書をその都度取り交わす方法が、別表4記載のとおり、継続的に行われてきた。右精算に際しては、九州最大手のガス会社であり、九州地区におけるプライスリーダーであるとされる西部ガスのブタンガス(都市ガスの原材料として一般的に使用されている。)仕入価格より一円低い価格を基本とするとともに、ブタンガスと副生ガスとは熱量(カロリー)が異なることから、右価格に熱量換算したものを取引価格として算定する方法を採っていた。
ところで、別表4記載のとおり、常に、清算金の支払を受けていたのは原告である上、本件各事業年度である昭和六二年三月期の精算率が62.8パーセント、昭和六三年三月期の精算率が61.58パーセントとなっており、各精算率が極めて高率であり、しかも、これまで、ほぼ原告の要求額どおりに精算が行われてきた。このため、昭和電工は原告に対し、何度か善処方を申し入れたが、その結果、平成三年一〇月以降は、西部ガスの取引価格を基準とするのではなく、サウジアラビア政府が公示するブタン価格によって調整した後、大蔵省が発表する輸入通関実績を基準とした価格を最終価格とするようになった。
(五) 他方、昭和電工は、会計処理上、まず、認可価格を基に売上を計上するが、同価格は、後に原告との合意により修正を受ける仮価格であるとの認識の下に、いったん、新聞や業界誌等から収集した各種情報に基づいて、西部ガスの取引価格に近い額を見積って売上引当金を計上し、最終的には、前記(四)のとおり、西部ガスの取引価格から一円を減額した価格を取引価格とし、右引当金を取り崩して原告に支払う方法により精算処理していた。
2 前記1の認定事実によれば、本件の副生ガスは、昭和電工には無価値な副産物であるばかりか、投棄するには多大の費用を要するものであることから、本来、通常の商品の売買価格にはなじみにくいものである上、昭和電工にとって、副生ガスの供給先は原告だけであったことから、通商産業大臣の認可を受けるべき副生ガスの料金の認可申請価格を設定する際にも原告が主導権を握り、その後の精算においても、昭和電工は原告に対し、右認可価格の六〇パーセントを越える極めて高率の清算金を支払い、昭和電工自身も、右認可価格が仮価格であることを前提とした会計処理をしていたのであるから、ガス事業法上の認可価格をもって、法二二条三項一号の「売上原価」と評価するのは相当でない。
3 なお、原告は、本件の仕入割戻金は事業年度終了後の割戻交渉により新たに実現したもので、仮価格の精算というようなものではない旨主張する。そこで、検討するに、仕入割戻しとは、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則取扱要領」(昭和三八年一二月二八日蔵理第九五八五号、最終改正昭和五七年九月二一日蔵証第一四一二号)の第一四九に規定されている売上割戻しの反対用語であることから、一定期間に多額又は多量の取引をした仕入先からの仕入代金の返戻額等をいうものと解されるが、仕入を前提としたものである以上、右返戻額等の仕入価額に対する割合には、その性質上、一定の限度があるものと解される。これを本件についてみると、前記1(四)で認定したとおり、本件事業年度における原告の割戻率は極めて高い上、原告と昭和電工の間で作成された精算に関する覚書(乙一の1ないし3、三の1ないし3、四の1ないし4、五の1ないし5)には、仮価格を精算する旨の記載はあるものの、仕入割戻しに関する記載はなく、これに前記1、2で認定、判示したところを併せ考慮すれば、本件仕入割戻金が事業年度終了後の新たな合意に基づく仕入割戻しであるとは解されない。
4 そこで、本件課税処分において、原告の右仕入価額を否認し、これに代わる仕入価額を認定したことが、租税法律主義に反するものであるかについて検討する。
「法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額とする。」(法二一条)とされ、右所得金額は、「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」(法二二条一項)とされていることから、損益法の企業会計の下では、的確な期間損益の把握が不可欠であり、発生したすべての費用は、収益との対応関係において同一の会計年度に計上されなければならない(費用収益対応の原則)。このことは、「当該事業年度の収益に係る売上原価」等(法二二条三項一号)は、「当該事業年度の損金の額に算入すべき金額」(同条三項本文)として規定されている。右のような期間損益計算の基本原則からすれば、「当該事業年度の収益に係る売上原価」等の額が当該事業年度終了の日までに確定していない場合には、同日の現況によりその金額を適正に見積らなくてはならず、法人税法基本通達二―二―一(乙二八)は、右趣旨に基づくものであると解される。また、右売上原価等の額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算される。」(法二二条四項)ものであるところ、右「会計処理の基準」としては、「企業会計原則」(昭和二四年七月九日経済安定本部企業会計制度対策調査会中間報告)、「企業会計原則注解」(昭和二九年七月一四日大蔵省企業会計審議会中間報告)(乙二五)、「原価計算基準」(昭和三七年一一日月八日大蔵省企業会計審議会中間報告)(乙一九)をそれぞれ考慮するのが相当である。ところで、「原価計算基準」によれば、「原価計算は、原則として実際原価を計算する。この場合、実際原価を計算することは、必ずしも原価を取得価格をもって計算することを意味しないで、予定価格等をもって計算することもできる。」(同基準六(一)2)のであり、「実際原価は、厳密には実際の取得価格をもって計算した原価の実際発生額であるが、原価を予定価格等をもって計算しても、消費量を実際によって計算する限り、それは実際原価の計算である。ここに予定価格とは、将来の一定期間における実際の取得価格を予想することによって定めた価格をいう。」(同基準四(一)1)とされている。そして、予定価格と「原価の実際発生額との差異は、これを財務会計上適正に処理しなければならない。」(同基準六(一)3)が、「予定価格等を適用する場合には、これをその適用される期間における実際価格にできる限り近似させ、価格差異をなるべく僅少にするよう定め」(同基準一四)、予定価格と実際発生額との差異が生じた場合においても、「材料受入価格差異は、当年度の材料の払出高と期末在高に配賦」し(同基準四七(一)2)、「予定価格等が不適当なため、比較的多額の原価差異が生ずる場合」には「当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に科目別に配賦する。」(同基準四七(一)3(2))とされている。そうすると、本件課税処分は、本件副生ガス仕入価格が、後に精算することを予定した仮価格であることを前提に、右「原価計算基準」に従い、法二二条三項により、本件各事業年度の収益に対応した仕入価額を適正に見積ったものであるから、租税法律主義に違反するとは解されない。
5 以上によれば、本件課税処分が、本件副生ガス仕入価額を売上原価としては未確定な仮価格であると認定した上、副生ガスの仕入価額の損金算入及び仕入割戻金の益金算入を否認して、これに代わる仕入価額を認定した点に実体上の違法はない。
二 本件副生ガス仕入価額に関する本件課税処分の手続上の違法事由の存否について(争点1(二))
1 税務署長は、「法人の帳簿書類を調査し、その調査により当該課税標準又は欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り」、青色申告に対する更正を行うことができるが(法一三〇条一項)、その場合でも、青色申告については、一定の帳簿書類を備え付け、それにすべての取引を記録し、かつそれを保存している者にのみ認められることから、右申告に高い信頼性を与えられているため、推計課税は認められていない(法一三一条)。課税所得金額を決める場合、本来は実額に基づいて決定されるべきであるが、納税者が実額算定の基礎となるべき帳簿書類を備えていない等で実額計算が不可能である場合に、課税の公平上、間接証拠によって所得金額を認定する方法が推計課税である。右の実額とは、客観的に存在する真実の所得金額をいうのが原則であるが、実際上、必ずしも真実の所得金額が帳簿書類等に完全に反映されているとは限らず、帳簿書類等に基づいて認定された所得金額が常に真実の所得金額と完全に一致するものではないことからすれば、直接資料(帳簿書類等に限定されない。)に基づき、客観的に存在すると評価できる所得金額を認定できる場合には、右認定方法は実額によるものであって、推計によるものではないというべきである。
2 そこで、本件課税処分において、西日本地域における原告と同業種の法人五社のブタンガス仕入価額を調査し、その最高価額によって仕入価額を認定した点が、推計課税として法一三一条に違反するか否かにつき検討する。
前記一で判示したところによれば、本件副生ガス仕入価額が売上原価としては未確定な仮価格であると認定した本件課税処分に違法はないから、原告の帳簿に記載された仕入価額には誤りがあったというべきであり、原告の帳簿記載のみでは実額が認定できないものと認められる。このような場合でも、原告の帳簿記載以外の資料から仕入価額の実額と評価できる金額が直接認定できるのであれば、それに基づいて更正することは可能であり、この場合は推計課税に該当しないことは、前記1で述べたとおりである。これを本件についてみるに、本件課税処分は、西日本地域における原告と同業種の法人五社のブタンガス仕入価額の最高仕入価額をもって原告の仕入価額と認定しているのであるが、前記一1で認定したとおり、原告自身が、昭和電工との間において、九州地区における原告の同業者である西部ガスのブタンガス仕入価格を基準として精算していたのであるから、本件課税処分は、原告との地域性、業種、仕入商品の同質性に配慮して同業者及び物品を選定したものであると解される上、原告の営業状況においては、その仕入価額が同業五社の最高仕入価額を上回るとは考えられないことから、右最高仕入価額を仕入価額と直接認定したものであって、これは、右調査資料を用いて、実額の課税標準を直接認定したものであり、法一三一条の推計課税に該当するとは解されない。
三 本件ブタンガス仕入価額に関する課税処分の実体上の違法事由の存否について(争点2(一))
1 前記争いのない事実に、証拠(甲一六ないし一八、一九ないし二三の各1、2、二四、二五、二六の1、2、二七ないし二九、四二、五〇の1ないし4、乙六ないし一〇、二〇、二三、二六、三三、三四の1ないし11、証人福島博明)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 別大興産の役員は、原告の代表取締役である福島親比古を始あとする原告の役員で構成されており、別大興産の売上先は原告一社のみである。また、別大興産には、事務処理を行う専従の社員はおらず、専用の事務室もなく、原告の取締役である福島博明が別大興産の経営責任者を兼ねている。
(二) 原告は、別大興産のほか、二豊液化ガス協同組合、新光商事株式会社、丸紅エネルギー株式会社(以下、後三者を総称して「二豊液化ガス外二社」という。)からもブタンガスを継続的に仕入れ、これを都市ガスの原材料として使用しているが、その仕入数量の約九割は別大興産からのものである。また、別大興産のブタンガスの主な仕入先である東洋瓦斯株式会社(以下「東洋瓦斯」という。)については、その株式の五〇パーセントを原告が保有し、その代表取締役(社長)は原告の代表取締役(社長)福島親比古で、他の役員にも原告の役員である福島博明らが含まれている。
(三) 原告が、別大興産及び二豊液化ガス外二社から、ブタンガスを仕入れるに当たっては、まず、当事者間で適宜設定(改定)した仕入単価に基づき、毎月、供給量に応じた代金を支払うが、右支払後、適宜過去に遡って精算の合意を行い、精算金の決済を行っていた(以下、当初設定される仕入価額の単価を「精算前価額」といい、精算後の単価を「精算後価額」という。)。
(四) 原告と二豊液化ガス外二社の間においては、昭和六〇年一〇月分から昭和六一年三月分の仕入につき同年八月八日付けで、同年四月分から同年九月分までの仕入につき昭和六二年七月九日付けで、昭和六一年一〇月分から昭和六二年三月分までの仕入につき同年九月一七日付けで、同年四月分から昭和六三年三月分までの仕入につき同年七月五日付けでそれぞれ精算の合意を行っている。また、本件各事業年度中、別大興産と東洋瓦斯の間においても、昭和六〇年一〇月分から昭和六一年三月分までの仕入につき同年九月三〇日付けで、同年四月分から同年九月分までの仕入につき昭和六二年五月二〇日付けで、昭和六一年一〇月分から昭和六二年三月分までの仕入につき同年九月一八日付けで、同年四月分から昭和六三年三月分までの仕入につき同年六月三〇日付けでそれぞれ精算の合意を行っている。これに対して、本件各事業年度中、原告と別大興産の間においては、昭和六一年四月分から同年八月分(同年四月分と同年八月分はそれぞれ仕入の一部)までの仕入につき同年一一月二〇日付けで、昭和六二年一二月分から昭和六三年八月分(昭和六二年一二月分と昭和六三年八月分はそれぞれ仕入の一部)までの仕入につき昭和六三年九月三〇日付けでそれぞれ精算の合意を行っているに過ぎない(なお、昭和六一年八月分の仕入のうち、右精算の対象となっていない部分、同年九月分から昭和六二年一一月分の仕入、同年一二月分の仕入のうち右精算の対象となっていない部分については、いずれも昭和六一年一一月二〇日付けの精算後価額を仕入価額の単価としている。)。
(五) 本件各事業年度における原告のブタンガス一キログラム当たりの仕入価額は、別表5のとおりであるところ、精算前価額においては、別大興産からの仕入価額と二豊液化ガス外二社からの仕入価額との間にはそれほど大きな格差はないものの、精算後価額では、二豊液化ガス外二社からの仕入価額相互間の価格差が一円以内であるのに対し、別大興産からの仕入価額と二豊液化ガス外二社からの仕入価額との間には七円ないし二五円の価格差があり、特に、昭和六一年七月から昭和六二年一二月までの約一年半の間は、二〇円以上の価格差が続き、昭和六三年一月以降も一〇円近くの価格差が続いている。
(六) 本件各事業年度におけるブタンガス一キログラム当たりの日経マンスリー価格(後記各日付を最終日とする一か月間の値動き)は、以下のとおりである(なお、右価格は、大手メーカー物で、タンクローリー届けの特約店卸の価格であり、ブタンガス卸の流通経路の中でも最終段階の価格であることから、卸価格のうちで最も高額な部類に属する。)。
昭和六一年
六月三〇日 四八〜五〇円
七月二八日 四四〜四七円
八月二五日 四三〜四六円
一一月一七日 三五〜四〇円
一二月一五日 三四〜三九円
昭和六二年
一月一九日 三一〜三七円
四月一三日 三一〜三七円
六月 八日 三一〜三七円
七月 六日 三一〜三七円
八月 三日 三三〜三八円
九月二八日 三二〜三八円
一二月二一日 三三〜三八円
2 まず、本件ブタンガス仕入価額が適正価額であったか否かにつき検討するに、前記1で認定したところによれば、役員構成等からみて別大興産が原告の同族会社であることは明らかであるところ、原告の別大興産以外のブタンガス仕入先である二豊液化ガス外二社と原告との間では、ブタンガスの仕入に伴う前記精算の合意の頻度及び精算後価額の点で極めて大きな差異が存在し、その結果、別大興産が二豊液化ガス外二社と比較して極めて有利な取引条件でブタンガスを原告に納入していることになる(逆にいえば、原告が二豊液化ガス外二社から仕入れるよりも相当割高な原料ガスをわざわざ同族会社である別大興産から仕入れていることになる。)が、これが経済的合理性に反することは明らかであり、原告が別大興産との間で、このように不自然な取引をしたのは、原料ガスの仕入価額を高めに設定することにより、原告の利益を同族会社である別大興産との間で分散させ、これによって原告の課税所得額を減少させる手段の一環であったと解される。したがって、本件ブタンガス仕入価額が適正であったとは解されない(なお、原告は、本件ブタンガス仕入価額がブタンガスの市況である日経マンスリー価格とほぼ一致しているから適正価額であると主張するが、前記認定の日経マンスリー価格と本件各事業年度の右仕入価額とがほぼ一致しているとは評価できない上、前記のとおり、日経マンスリー価格は、卸価格の中でも最も高額な部類に属するものであることをも考慮すると、原告の右主張は採用できない。)。
3 そこで、原告の別大興産からのブタンガス仕入価額のうち適正額を超える部分を寄付金と認定した本件課税処分が、租税法律主義に反するものであるか否かについて検討する。
法三七条の寄付金には、その最も典型的な形態である金銭の無償の給付の他にも様々な形態があり得ることから、まず、同条六項において、「いずれの名義をもってするかを問わず」、対価性のない「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」を寄付金として扱う旨規定している。また、同条七項においてて、対価性のある「資産の譲渡又は経済的利益の供与」についても、その「対価」と「譲渡の時における価額」又は「供与の時における価額」との間に差がある場合には、その「差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」が寄付金の額に含まれると定め、寄付金に該当する利益供与の形態と損金に算入されない寄付金の範囲を明らかにしており、同条七項は同条六項の内容を補完し、実質的には同項の一部を構成しているものと解される。そして、同条七項は、資産の低廉譲渡等による実質的な贈与の場合について定めたものであるが、逆に、資産の譲受けに当たり時価よりも不相当に高い対価を支払うことにより相手方に実質的に贈与を行う場合にも、当該時価相当額の超過部分(贈与部分)をそのままにしておくと、減価償却費や譲渡原価等に形を変えて損金算入される結果となることは資産の低廉譲渡等の場合と同様であるから、同条六項により、右部分は寄付金と認定するのが相当である。ところで、同条七項によれば、資産の低廉譲渡の場合であっても、時価との差額が当然に同条六項の寄付金の額に含まれるものとされるのではなく、右差額のうち「実質的に贈与したと認められる金額」に限られているのであり、このことは資産の高価譲受けの場合も同様と解されるところ、「実質的に贈与したと認められる」ためには、当該取引に伴う経済的な効果が贈与と同視できるものであれば足りるのであって、必ずしも譲渡者が贈与の意思を有していたことを必要とせず、また、時価との差額を認識していたことも必要としないと解すべきである。この点につき、原告は、前記2で判示したとおり、本件ブタンガス仕入価額を高めに設定することにより、原告の利益を同族会社である別大興産との間で分散させ、これによって原告の課税所得額を減少させていたのであるから、本件ブタンガス仕入価額のうち、適正価額を超える部分については、原告の別大興産に対する贈与と同視できるものであったというべきである。
したがって、本件ブタンガス仕入価額のうち適正価額を超える部分を別大興産に対する寄付金であると認定した上、寄付金の損金算入限度額を超える部分の損金算入を否認して所得金額に加算した本件課税処分に、実体上の違法はない。
四 本件ブタンガス仕入価額に関する課税処分の手続上の違法事由の存否について(争点2(二))
本件課税処分は、別大興産からのブタンガスの仕入価額のうち、適正額を超える部分を同社に対する贈与と認定しているところ、右仕入価額の認定に当たっては、昭和電工からの副生ガスの仕入価額の見積りの際と同様に、西日本地域における原告と同業種の法人五社のブタンガス仕入価額を調査し、その平均価額ではなく最高価額によって、直接仕入価額の実額を認定したものである。したがって、本件課税処分は、前記二で判示したのと同様に、法一三一条の推計課税に該当するとは解されない。
第四 結論
よって、本件課税処分が違法であるとしてその取消を求める原告の本訴請求は、いずれも理由がない。
(裁判長裁判官安原清藏 裁判官高橋亮介 裁判官木太伸広)
別紙別表<省略>